医療法人について
2025/08/14
1.医療法人とは
そもそも医療法人とはなんでしょうか。医療法第39条では「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる」と規定されており、医療行為を行う医師や歯科医師の先生が個人事業のクリニックを法人化する場合はこの医療法人となることが一般的です。
2.医療法人成りのメリット・デメリット
個人クリニックを医療法人とすることにはメリット・デメリットの両面があります。
【メリット】
・節税効果が高い
個人事業主に係る所得税は累進課税なのに対し、法人に係る法人税は比例課税のため、課税される所得が増加するほど法人となる方が有利になっていきます。特に年間の課税所得が1,800万円を超えている方の場合、所得税率は40%になっている一方、法人とした場合に係る法人税率は23.2%と、その他の法人事業税や法人住民税を合わせても税率を抑えられる可能性が高くなります。また、院長とそのご家族を役員として所得を分散させることにより、所得税の累進課税を緩和することも期待できます。
他にも院長や役員への退職金を支給する場合、その退職金は法人の経費として計上することができるので、利益を減らし税額を抑えることができます。
・事業拡大がしやすい
医療法人の形態であれば、組織として分院展開を行うことや、介護事業などの事業拡大を目指すことも容易となります。原則として個人事業主である医師または歯科医師が開設できる診療所は1箇所のみとされていますが、医療法人の場合は法人格が医療機関の開設者となるため、一の医療法人が複数の診療所を運営することも認められています。
また、昨今需要が高まっている介護事業所の開設では法人格が必要とされているため、医療法人成りをすることで介護事業へ参入することもできます。
他にも、法人となることで個人事業主だった頃よりも社会的信用が高まるため、金融機関からの融資も受けやすくなる傾向があります。
【デメリット】
・経営の自由度の低下
医療法人は高い公益性が求められるため、個人事業に比べ様々な制約があります。例えば、個人事業であれば院と院長個人との現預金の垣根は曖昧で、自由に移動させることもできますが、医療法人成りをすると事業での資金とプライベートに係るものとは明確に区別する必要があります。そのため、個人の生活における必要資金は毎月の役員報酬からやり繰りをしなければならなくなり、プライベートで突発的な支出があったとしても自由に法人口座からお金を引き出すことは原則できなくなります。
・設立時期が限られる
医療法人を設立するためには各都道府県の認可を受ける必要があります。この認可は自治体により異なりますが、年2回行われることが一般的です。例として令和7年度の東京都における設立認可申請書の受付期間は、1回目が令和7年8月18日から22日まで、2回目が令和8年3月12日から18日までとなっており、審査を経て設立認可書が交付されるのはこの受付期間の約半年後となります。
その後晴れて設立認可書が交付されたときは2週間以内に設立登記をしなければならないため、その2週間のうちであれば設立日をいつにするか選択することができますが、1年365日のうちから任意に設立日を選ぶことは出来ません。
3.医療法人成りに最適のタイミング
医療法人成りには適したタイミングがいくつかありますが、税金面で考慮するのであれば、上述の通り課税所得が1,800万円を超えるときが医療法人成りに最適のタイミングといえます。また、課税所得が1,800万円を超えない場合であっても、社会保険診療収入が5,000万円を超えまたは総収入金額が7,000万円を超えて概算経費が適用できなくなると、経費実額のみにより税金計算がなされるため、税額が大幅に増加することもあります。このような場合も法人成りを検討すべきタイミングとなります。
また、経営面では、分院や介護事業所などの開設を目指される場合、個人事業主では行うことができないため、事業拡大のために法人成りを検討するケースもあります。
おわりに
医院経営の目標や展望によって、医療法人成りに適したタイミングは異なり、場合によっては上記のメリットを充分に享受できない可能性もあります。医療法人成りに際しては、現状だけでなく今後の事業計画なども勘案して慎重に検討しましょう。